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アンモニアを燃料として火力発電所で利用する場合、サプライチェーン全体(製造・輸送・燃焼)でPM2.5の元になる物質の排出量が増加するのではないか?
A. 技術的にも法令的にも、火力発電所でのアンモニアの燃料利用によりPM2.5の元となり得るアンモニアや窒素酸化物等の大気への放出量が増えることはなく、PM2.5が増加することはありません。
そもそも:アンモニアがPM2.5生成に影響を与えるメカニズム
アンモニア(NH3)そのものがPM2.5に該当するのではなく、硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)とアンモニア(NH3)が大気中で反応し、サルフェートやナイトレートと呼ぶ微小粒子状物質(PM2.5)が生成されることで二次的に影響を及ぼすことになります1)。
- 大気に排出された二酸化硫黄(SO2)は、ガスのまま酸化されるほか、水に溶けて酸化されるなどして硫酸(H2SO4)が生成されます。硫酸は大気中では液滴として安定して存在しますが、アンモニア(NH3)などと反応して固体粒子化しサルフェートを生成します。
- 燃焼過程で生成された一酸化窒素(NO)は、大気中で徐々に酸化され、水と反応して硝酸(HNO3)となります。硝酸は飽和蒸気圧が高いため単独では粒子化することなくガスで存在しますが、アンモニア(NH3)などと反応しナイトレートとなります。
つまり、火力発電所での利用に伴ってサプライチェーン全体(製造・輸送・混焼)で排出されるSOx・NOx・NH3の量を現状以下に抑えることができれば、アンモニアの燃料利用によりPM2.5が増加することはないといえます。
「製造」時のSOx・NOx・NH3排出量
- SOx・NOx:アンモニア製造プラントは、建設地の国が定める厳しい大気汚染防止に関する許認可を取得した上で設計・建設されます。例えば世界銀行傘下のIFCの指針では、SOx排出量は20μg/m3以下2)、NOx排出量は300mg/Nm3以下3)となっています。
- NH3:アンモニア製造プラントは、運転中に漏洩しないよう厳格に管理されていますが、バルブやフランジからFugitive Emissionと呼ばれるどうしても避けられないガスが排出されるケースがあります。但しその量は全体の0.001%程度にすぎません4)。
「輸送」時のSOx・NOx・NH3排出量
- SOx・NOx:船舶燃料もアンモニアへの転換が検討されていますが、船舶からのSOx・NOxの排出量は国際規則が厳しく設定されており、基準を満足することが求められるため、SOx・NOxの排出量増加には繋がりません。またアンモニアはSOxの原因となる硫黄を含まず、NOxについても、内燃機関におけるNOx排出削減の最適化に向けた改良、および排出ガス中の残留NH3やN2Oを含むNOxの触媒分解装置による除去の両面について、国内外で開発が進められています5)。
- NH3:自然入熱でタンクなどのNH3が蒸発しBoil Off GasとなりますがCompressorなどで再液化され大気中には放出されません。Fugitive Emissionについても、船はプラントよりバルブ/フランジ数が少ないため、排出量は製造時よりはるかに少なくなります。
「混焼」時のSOx・NOx・NH3の排出量
- SOx・NOx:そもそも日本の火力発電所は排煙脱硫装置や排煙脱硝装置などの設置や燃焼方法の改善など排出量の低減に取り組んでおり、2021年度の排出原単位は欧米主要国より極めて低い値(SOx 0.03g/kWh、NOx 0.07g/kWh)となっています6)。
- NH3:アンモニアが従来の化石燃料よりも燃えにくいことは事実ですが、適切な燃焼方法を使うことによって燃え残りのNH3をほぼゼロにすることが可能です(20%混焼時で1ppm以下7))。また、仮に燃え残りが出たとしても、火力発電所で既に利用されている排煙脱硝設備においてNH3は消費されますし、そもそも脱硝設備出口での未反応のNH3は最小限となるよう厳しく管理されています8)。さらには、煙突や敷地境界でのアンモニア濃度は悪臭防止法により規制されており、排出量を増やすことは許されていません9)。
【参考】
1) 特定非営利活動法人 国際環境経済研究所「PM2.5は、何でできてるの?」
(2013年10月28日)【Link】
2) International Finance Corporation「Environmental, Health, and Safety General Guidelines」【Link】
3) International Finance Corporation「Environmental, Health, and Safety Guidelines for Nitrogenous Fertilizer Production」【Link】
4) United States Environmental Protection Agency「Protocol for Equipment Leak Emission Estimates」【Link】
5) 国際海運GHGゼロエミッションプロジェクト「国際海運の2050年カーボンニュートラル達成に向けて」(2022年3月)【Link】
6) JERAウェブサイト「大気汚染の防止」【Link】
7) 日本機械学会論文集 86巻 883号「排ガスNOx生成を抑制する微粉炭/アンモニア混焼技術の開発」【Link】
(In English)IHI Engineering Review Vol.55, No.2 (2022) ‘Development of Co-Firing Technology of Pulverized Coal and Ammonia for Suppressing NOx Generation’
8) 特定非営利活動法人 国際環境経済研究所 環境技術解説「排煙脱硝技術」【Link】
9) e-gov 「悪臭防止法」【Link】
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